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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)104号 判決 1950年6月08日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人中川精市の上告趣意第一点について。

原判決が所論のごとく住居侵入と窃盗の事実を認定し、それぞれ相当法条を適用した上牽連犯として重き窃盗の刑を以て処断したことは所論のとおりである。そして、本件起訴状には公訴事実中に「屋内に侵入し」と記載されてはいるが罪名は單に窃盗と記載され罰条として刑法二三五条のみを示しているに過ぎない。しかも第一審公判調書を見るに右住居侵入の訴因について、裁判官の釈明もなく檢察官において罰条を示して訴因を追加した形跡もなく第一審判決もその点について何等の法律適用を示していない。されば、住居侵入の点は訴因として起訴されなかったものと見るのが相当である。しかるに原判決は第一審判決が前科のある事実を判決の理由中に示さなかった点を職権を以て理由にくいちがいあるものとして(判決に理由を附せずの誤りと認める昭和三年大審院刑事判例集三三頁参照)破棄自判しながら訴因の追加もないのに住居侵入の犯罪事実を認定しこれに対し刑法一三〇条を適用したのは、結局審判の請求を受けない事件について判決をして違法があるものといわなければならない。しかし、原判決は住居侵入と窃盗の牽連一罪の刑を以て処断したものであるから、右違法は未だ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認め難い。そして、本論旨は刑訴四〇五条に定める上告理由に当らないし、また、右のごとく同四一一条を適用すべきものとも認められないから、採ることができない。

同第二点について。

論旨は明らかに刑訴四〇五条に定める上告適法の事由に該当しない。しかのみならず、原判決が証拠として掲げている第一審第一回の公判調書によれば被告人は判示犯罪の日時を認めているから、これを以て原判示の犯罪日時の認定を是認することができるばかりでなく、犯罪の日時は通常罪となるべき事実ではなく、単にこれを特定する一方法たるに過ぎないから(刑訴二五六条三項参照)犯罪の日時の認定は罪となるべき事実の誤認ともいえない。それ故所論は同四一一条の事由にも当らない。

同第三点について。

所論は刑の量定の非難であるから、明らかに刑訴四〇五條に定める上告の事由に当らないしまた、同四一一条を適用すべきものとも認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎)

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